甘やかな黒色
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黒色に身を包んだ美しくも残酷な青年と契りを交わす。そうして"私"はゆるやかに"私"を殺してゆく。 私という私を殺し尽くした最後に、ひしと抱き締めていた夏がとうに死んでいたのに気づいた。 誰も倫理など持ち合わせていやしない。きっとみんな地獄行き。そんなお話です。 文字数は18000字程度。生臭い人間のお話を夜長に摘みたいときにどうぞ。
ご試食品
" 数年間曖昧な関係であった男から関係の終焉をはっきりと告げられた。 身体の関係は在った。精神の関係は無かった。私が蜃気楼のように幻覚を見ていただけだった。 " " 関係が終わることを告げられたスマートフォンの通知がぴかぴかと光る。いいえもう本当はずっと前から終わっていたのだ。私が知らぬ間に息の根を止めていたのだ。私がそれに気付かずいつまでも朽ちた屍にキスをしていたに過ぎないのだ。口から独りでに零れた言葉は「これからどうやって生きればいいんだろう」というものだった。 " " 黒は私がいちばん好きな色だった。何物にも染まらず、しいんと静かでそれでいてどんな色よりも確立している。 私の中の"美しいもの"とははっきりとしたもののことだった。それは曇り空にぼんやり浮かぶ月のように曖昧なんかじゃなく、輪郭がくっきりと浮き出ているもの。けしてこんな、私の履いている周りから浮かないようにとだけ考えて買ったエメラルドグリーンのチュールスカートみたいにぼんやりとした輪郭じゃない。 私の中の"美しいもの"とははっきりとしたもののことだ。そう例えば、このただそこにいるだけで強烈な境界線を放つ真っ黒で美しい男のように。 " " 「僕は君のことがすごく好きなんだ。女の子の中では一番。まるで、僕が生まれたときに欠け落ちた、半身のようで」 " " 私は私でいるための自己規定を繰り返し、いつしかその規定も捨ててしまう。軽やかに。 " " 殺してやりたいと思った。男はどうか幸せに暮らして欲しいと今でも願う、しかし思い出は、私と彼がほんの一刻だけ重なり合ったその一瞬の邂逅だけは、無惨に殺してやりたいと願った。 "